ログイン結局坂口の案が通り、3人は徒歩で藤原宅を目指した。
先頭の健太郎はショットガンを手に、体にクロスで巻いている散弾を突っ込み、前方から襲ってくる石像向けて発砲し道を作る。
腰にはダイナマイトが巻かれ、囲まれた時にいつでも使用できるようにしていた。
坂口は十字架を掲げ、
「悪魔の下僕たちよ! 立ち去れ!」
そう叫ぶ。
そして近付いてくる石像にニンニクを投げつけていた。
最後尾を任された藤原はベレッタを手に、石像の足を狙って動きを止める。
そうしてる内にようやく、当初の予定であった東三国にたどり着き、物陰に隠れて一息入れた。
「ふうううっ……」
健太郎と藤原が、汗だくになった頭を振って汗を飛ばす。
「おえ、ちょい一服や」
「そやな」
健太郎と藤原がそう言って、煙草に火をつけた。
時計は12時になろうとしていた。
「う~ん」
坂口は腕を組み、うつむきながらうなっている。
「坂口さん、どないかしはったんですか?」
健太郎がそう聞くと、坂口は眉間に皺を寄せてぽつりとつぶやいた。
「おかしい。十字架も……ニンニクも効かん……」
「はぁ?」
「このモンスターには何が効くんやろか……」
健太郎が溜息を漏らした。
「しかし……おえ藤原、何とかここまで来れたな」
「そやな。あと2キロ、この調子やったら行けそうや……そやけどな、ちょっとやっかいな問題があるんや」
「何やそれ」
「弾がつきてきた」
「そうか……俺のショットガンは……まだいけるな。おえ藤原、俺のガバ使えや」
「おお、すまんな」
藤原が健太郎から、まだ一発も撃っていないガバメントとマガジンを受け取った。
「もぉちょいや、何とかしょうで」
「そやな」
「火炎瓶も効かんかったし……あと残ってる武器といえば、銀の弾ぐらいやなぁ」
坂口がつぶやく。
「吸血鬼とか狼男には最高に効くんやけどな……まぁ何とかなるやろ。よし、パチンコの要領でこれを使うとしよう。藤原君、僕のグロックも君に任せるわ。君の腕は大したもんや。その腕で後方を守ってくれ。前方から襲ってくるやつらは、僕と山本君で何とかする」
「分かりました」
「よっしゃ、ほんだら突っ込むか!」
「健」
「ん?」
「こんまま真っすぐ行ったら俺の会社や。すまんけどな、着いたらそのダイナマイトで会社、吹っ飛ばしてくれんか」
「会社をか」
「そや、派手に頼むで」
「……なるほどな」
健太郎がニタリと笑った。
「ただでは帰らんっちゅう訳やな、お前らしいやないか。分かったまかしとけ、こいつでお前の社畜人生、終わらしちゃる」
そう言って、健太郎がダイナマイトをポンと叩いた。
「ほんだら行くぞ!」
「おおっ!」
3人が走って大通りに出た。その時だった。
「な……」
待ち構えていたかの様に、石像の大群が3人を取り囲んでいたのだ。
「あかんっ、退路も絶たれた! おえ藤原っ、何とかせえっ! とにかく撃ちまくれっ!」
「く……糞っ……!」
藤原が両手を広げ発砲する。
しかし次々と襲ってくる石像たちの輪が、だんだんと縮まり、ついには藤原を完全に取り囲んだ。
「おい健っ! ここは俺が何とかするっ! お前らだけでも先に行けっ!」
「くっ……分かった! 死ぬなや藤原っ! 坂口さん、ついて来てください!」
「分かった、僕も銀の弾で何とかしよう」
「うおおおおおおおっ!」
健太郎が導火線に火をつけ、ダイナマイトを群れに投げた。
ドゴオオオオオオオオオッ!
爆発が起こり、前方が開けた。
その隙を逃さず、健太郎と坂口が走っていく。
「藤原、13時やぞっ! 絶対こいやっ!」
「頼むぞっ! 会社もぶっ飛ばしといてくれやっ!」
「おおっ!」
囲まれている藤原を背に、健太郎と坂口が突っ走っていった。
* * *
「ここが藤原のおっさんのマンションか」
石像の残骸の中、一番早く到着したのはやはり直美だった。
直美が時計を見ると、12時ちょうどであった。
「あと1時間も待たなあかんのか、ふうっ」
帽子を脱いで汗を拭い、直美は玄関前の階段に腰を下ろした。
「あいつら……これるんかな……」
ポケットから煙草を取り出し、火をつける。
「あと1時間……じっとしてても面白ないし、適当に回って石像と遊んでよかな」
その時だった。
カシャッ!
オートロックの鍵が外れ、ドアが開いた。
直美は素早く立ち上がり、戦闘態勢を取った。
「何や、この気配は……」
直美がドアと対峙する。
直美の感じる気配は、明らかに石像が発するそれとは違っていた。
何かしら言い知れぬ、妖気が漂っていた。
直美の頬に汗が流れる。
その時、インターホンから声が聞こえてきた。
「……よくここまでたどり着けましたね……直美さん、でしたね……素晴らしい働きでしたよ、あなたは……さあ、ご案内しましょう……」
「誰やっ!」
「おやおや、あれだけ勇敢に石像と戦っておきながら、私が怖いのですか……」
「何をっ! 誰がびびるかっ!」
「そうでしょうそうでしょう……あなたは本当に立派な戦士だ……手元に置きたいぐらいですよ……さあ、どうぞこちらへ……」
エレベーターが音もなく開く。
「おおっ! 行かいでかっ!」
くわえていた煙草を吐き捨て、直美が大股でエレベーターに乗り込む。
ドアが閉まり、13階のランプが点灯した。
エレベーターがゆっくりと上がっていった。
* * *
(あかん……坂口さん連れてきたんは、完全に誤算やった……)
約束通り会社をダイナマイトで吹き飛ばし、ようやく藤原のマンションにたどり着いた健太郎が思った。
坂口はひたすら十字架を掲げて大声をあげるか、たまに銀の弾をパチンコで飛ばす事しかしていなかった。
勿論、石像には全くダメージを与えていない。
「なぁ山本君、やっぱり石像には十字架が効かんみたいやな」
「はあ……」
「それに銀の弾も効かんかった……う~ん、やつらには弱点がないと見える」
「はぁ……」
「まあええか、とりあえず二人の力でここまで来れた。あとは直美と藤原君を待つだけや」
「ですね……まだ約束の時間まで30分ほどありますから、ここで待ちましょか」
「そやなぁ」
その時、直美の時と同じくドアが開き、インターホンから声が聞こえてきた。
「お疲れ様でしたね、健太郎さん……それと坂口さん……でしたね……さあ、もう直美さんはこちらにご案内しております……あなたたちもどうぞ、お入りください……」
エレベーターのドアが開いた。二人が顔を見合わせる。
「坂口さんどないします? 直美ちゃんはもうこん中におるっちゅうてますで。僕の散弾はあと三発しか残ってません。乗り込みますか? それとも、藤原を待ちますか?」
「そやなぁ……直美がおるんやったら大丈夫やと思うんやけど、僕も銀の弾がつきてしもたし、武器らしい武器といえば十字架ぐらいしかないしな」
「どうしました健太郎さん……涼子さんが心配じゃないのですか……」
「くっ……こんガキ、挑発してけつかる」
「涼子さんが今どうなっているのか……興味ありませんか」
「山本君、状況はよく掴めんけどな、どうもこのマンションに首謀者がいてるみたいやぞ」
「んな事改めて言われんでも分かりますがな! このシチュエーション、どう考えてもクライマックスのノリでんがなっ!」
「やっぱり君もそう思うか」
健太郎が頭を抱えた。
「まぁ……よろし。とにかく中に入りましょうや」
「そうしょうか。首領がおるんやったら、今度こそ十字架が効くかもしらんしな」
二人がマンションの中に入った。
するとドアが閉まり、鍵がロックされた。
「これでもう、逃げられへんっちゅう訳か……」
健太郎がそうつぶやいた。
そしてエレベーターに乗ろうとしたが、坂口がそれを制した。
「どないしました?」
「いや、ちょっと喉が渇いてん。ジュース飲ましてや」
そう言って自販機に金を入れた。
健太郎がまた溜息をつく。
「ふううっ、甘露やな」
ひと口飲んだ坂口が、爽やかに微笑む。
「坂口さん……もうええでっか」
「ああ、ええよ行こか」
「……はぁ」
半年後。戦いは終わった。数百万の犠牲を払った大阪に、少しずつ活気が戻りつつあった。事件の真相は当然、誰にも分からない。全てを理解しているのは、藤原と涼子だけ。そして二人が、それを口外する事はなかった。* * *徘徊していた数百万にも及ぶ石像たちは皆、元の姿に戻っていた。しかし坂口の言っていた、「首謀者を倒せば、呪いが解けて皆が助かる」と言う言葉は、残酷な答えとなって返っていた。確かに元の姿に戻りはしたが、脳味噌を排出した人々が再び蘇生する事はない。市内は数百万人の死体の山、ゴーストタウンと化していた。学者たちは頭を悩ませ、連日この惨劇を巡っての議論が続いた。だが誰一人として、答えにたどり着くものはいなかった。藤原は思っていた。(呪いからは解き放たれた……魂っちゅうもんがあるんやったら、みんな、安らかな眠りについた筈や……そうや、絶対そうや……)* * *雲ひとつない透き通る青空を、ベンチに座って見つめている藤原と涼子。藤原が涼子の頭を優しく撫でた。「お兄ちゃん、屁たれにだけはなりたくないね」涼
爆発が起こった。衝撃で部屋が揺れる。「なるほど……健太郎さんにしては、なかなか格好いい最後だったようですね、ふはははははははっ!」「くっ……健っ……!」素早くマガジンチェンジを行い、藤原が雄介目掛けて発砲する。その藤原の体を、雄介の鋭い視線が容赦なく切り刻んでいく。* * *その時、爆発音に妖しい眠りから覚めた涼子の視界に、雄介と戦う藤原の姿が映った。「……お……お兄ちゃん……」涼子が体に巻かれたコードを外そうとあがく。幸いにもコードは緩く締められていて、何度か試みている内に外す事が出来た。―涼子の目に、床に転がる鉈が映った。涼子が鉈を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。「ふはははははははっ! 藤原君、そろそろお別れの時ですね! 僕を裏切った事、あの世で後悔してください!」涼子が鉈を振りかざし、雄介の後ろに立った。藤原は壁にもたれかかり、諦めきった表情で両腕をだらんと下ろした。「よりによって、屁たれのクソダコに殺られるとはな……」「死ねっ!」その時だった。「やああああああああっ!」
雄介が拳を握り締め、わなわなと肩を震わせた。レースでよく見えないが、泣いている様に見えた。そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。「あっはっはっはっ!」虚しい笑い声が、室内に響く。「分かりました……僕には……僕には友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」「何……直美ちゃん、やと……」雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」「待て健」身を乗り出して叫ぶ健太郎を、藤原が制した。「よお見てみい、目が死んどる」「な、直美ちゃん……」「彼女はもう、僕の忠実な下僕です。彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには余りにも惜しい、そう思いましてね。彼女にはその姿のまま、僕の番犬になってもらったんです。さあ直美さん! まずは健太郎さんを殺して下さい!」その声に、直美の肩がピクリと動いた。&nbs
10分後。「ええ加減にさらさんかえこのボケッ!」健太郎が藤原の後頭部を張り倒した。「ごっ……!」衝撃で目から火を出した藤原が、思わずうなる。そして静かに、大きく深呼吸すると手を挙げ、二人に言った。「すまん、ちょっとタイムや……」ポケットから煙草を取り出し、くわえて火をつける。「ふううううぅっ……」白い息を吐き、眉間に皺を寄せ、天を仰ぐ。「……よし、もう大丈夫や……いわちゃき、いや、岩崎雄介やな、分かった……」煙草を床に捨て、踏み消した。「……そやけど、岩崎雄介……そんなやつ、俺知らんぞ。訳の分からん事ぬかしやがって……それも人の事、馴れ馴れしぃ呼びくさって」「正気に戻ったかえ。そやけどちょっと待てや、その話は後や。おえ屁たれ! 先に俺が質問するっ! お前がどないして、そんな訳の分からん能力を得たんか、まずはそっからや! さあ、答えたらんかえっ!」健太郎が雄介にショットガンを向けて吠えた。健太郎の問いに、思考が停止していた雄介もようやく我に帰った。「……い、いいでしょう&
銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」健太郎が大声で叫んだ。「……分かった」藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。その時だった。「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」雄介の狂喜する声が響いた。「何を! 騙されるかえっ!」「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。「……」藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。「坂口さんも……やられたんか……」「お
13階でドアが開いた。ショットガンを突き出しながら、健太郎が素早く左右に目を這わせた。坂口は十字架を天高く掲げ、健太郎に続く。その時、またあの声が聞こえてきた。「心配ありませんよ……ここに石像はいません……いるのは僕だけです……」「くっ……こんガキ、とことん挑発してけつかる……まあええ、行ったろやないかえっ!」健太郎が吠え、大股で藤原の部屋に向かった。声の主の言う通り、石像に遭遇する事無く、二人は藤原の部屋の前に立った。健太郎と坂口が顔を見合わせ、互いにうなずく。その時、玄関のドアが静かに開いた。「坂口さん、行きまっせ!」「分かった!」二人が同時に足を踏み入れる。「な……」健太郎が我が目を疑う。そこは既に、健太郎が知る藤原の家ではなくなっていた。バスルーム以外の壁が全てなくなっており、3LDKの部屋が大きな一室になっていた。そして至る所に、藤原の写真が所狭しと貼られていた。「な……なんじゃこの部屋は……藤原、藤原だらけやないか……あいつ、こないナルシストやったんかいな&hellip